企業が健康経営を推進する上で取り組みたいことの一つに、「五月病」の対策があります。
新年度から1カ月が経過したゴールデンウィーク後、急に社員のやる気がなくなる、いわゆる「五月病」。新入社員だけでなく、中途入社の社員、異動や転勤したばかりの社員などにも見られます。
実際、五月病は仕事への影響や早期退職の原因ともなり、企業にとっては解決したい大きな課題です。しかし、五月病を正しく理解していなければ、適切な対処も対策もすることができません。
企業としては、単に「個人の健康管理問題」とせず、労働環境そのものを見直す必要があります。長時間労働や人間関係のストレスなど、五月病の原因となる要素を少しでも排除することが不可欠です。
そこで本記事では、五月病の症状や原因を詳しく解説するとともに、企業が実施すべき具体的な対策について説明します。
■目次
1. 五月病とは?
2. 五月病の主な症状
3. 五月病を引き起こす原因
4. 企業が行うべき対策
4-1. 研修やセミナーの実施
4-2. 労働時間や仕事量の配慮
4-3. 上司や専門スタッフによる相談機会・窓口の創生
4-4. 不調や五月病のサインを見逃さない研修、管理マニュアルの用意
4-5. チームコミュニケーションの充実
5. まとめ
1. 五月病とは?
五月病は、学生や社会人にとって学業や仕事に支障をきたす精神的な問題に起因した症状のことです。
「五月(=5月)病」と名前にある通り、5月に発症する人が多く、長い休みのゴールデンウィーク明けをきっかけに症状の出る人が増えます。
なお、同様の症状が6月に現れる場合は「六月病」と呼ばれることもあります。六月病は環境の変化に加え、新年度が始まり業務が本格化することでストレスがピークを迎えることが原因と考えられています。本記事ではこの「六月病」も含めて「五月病」として話を進めます。
一般的な呼び名として広まっている「五月病」ですが、実は医学的に正式な名称ではありません。新しい環境に慣れ始めたころに現れる症状のことを指しており、重症化すると「適応障害」や「うつ病」と診断されるケースもあります。
まとめて「五月病」と呼ぶのは、人によって症状や原因に違いがあるためです。
従来より想定されている五月病は、明確な原因があって、環境の違いや周囲との軋轢など精神的なストレスが増えて発症するものです。例えば、その五月病が「適応障害」だった場合、学校や職場を休めば症状がある程度回復し、薬を飲んでもあまり症状は良くならないという特徴があります。
一方、五月病が「うつ病」だった場合、原因が見つからず、登校や出社を一時的に辞めてもすぐには症状が改善されません。その代わり、症状に薬が効くため、その人の内面だけが問題ではなく、ホルモン分泌など脳に問題がすでに起き始めています。
うつ病は発症すると自然回復が難しく、症状のタイプによってはうつ状態を繰り返したり、深刻化したりします。そのため、早期に医療機関を受診して治療を開始する必要があります。
2. 五月病の主な症状
五月病の主な症状は、「自覚症状」と「他覚症状」があります。具体的な症例は、以下のものが挙げられます。
自覚症状:
・やる気・意欲の低下、倦怠感
・頭痛や肩こり、その他身体的な症状
・食欲不振、下痢、吐き気、胃の痛み、動悸
・精神的な不安定さ(気が立つ、注意力が散漫)
・将来に対するモチベーション・達成感の低下
・睡眠障害(不眠)
・問題行動の増加(タバコ、飲酒の過剰な摂取)
他覚症状:
・提出・納品の遅延
・ケアレスミスの増加
・人間関係のトラブル
五月病の自覚症状には、やる気・意欲の低下のように「なんとなくやる気が出ない」という軽度の精神的な症状から身体の痛みや症状、行動にまであらわれる症状までさまざまなものがあります。
精神的な症状には、起こりやすくなったり、注意力が落ちたり、モチベーションが下がったりなどが挙げられます。行動にあらわれる症状としては、タバコの本数が増えたり、飲酒が増えたり、会社を休みがちになるなどがあります。
これらは自覚症状に含まれますが、中には第三者から指摘され無自覚で起こるような他覚症状も一部該当します。
他覚症状の例としては、提出・納品の遅延やケアレスミスの増加、精神的不安定さからくる人間関係のトラブルなどです。
特にうつ病が絡む場合の自覚症状がない五月病は、本人が知らないうちに症状が悪化して、長期治療が必要になることもあります。周囲の人間が気づいたらきちんと指摘して医療機関の受診や十分な休息を取ることを促す必要があります。
3. 五月病を引き起こす原因
五月病は、特定の1つの原因ではなく、複数の背景や要因が絡み合って起こります。例えば、以下のようなものがあります。
・新たな環境の変化
・イメージ(理想)とのギャップ
・なりやすい人(本人の特性)
・社会状況(新型コロナウイルスの蔓延)
新たな環境の変化
新しい環境に対して高い期待や理想をもっていた場合、現実とのギャップから大きなストレスを感じてしまい、五月病になりやすくなります。
例えば、学生時代に抱いていた社会人像や仕事のイメージが、実際の職場と大きくかけ離れていた場合です。理想とのギャップに耐えきれず、失望やストレスから意欲の低下や不安障害などの症状が出る可能性があります。こうした理想と現実のギャップが、五月病発症の大きな要因となっています。
イメージ(理想)とのギャップ
五月病には明確な原因がある場合とない場合があると述べましたが、ある場合はストレスが発生することがその一因です。
具体的には、新しい環境への変化が心身に大きな負担をかけ、ストレスになることがあります。人間には環境に適応しようとする力がありますが、環境の変化に上手く対応できずにストレスをため込んでしまうと、「適応障害」と呼ばれる病気を引き起こす可能性があります。
特に新入社員の場合、職場環境や生活環境、通勤環境など、さまざまな変化に一度に直面するため、ストレスがかかりやすい状況にあります。環境への適応に失敗すると、五月病を発症しがちになるのです。
なりやすい人(本人の特性)
五月病になりやすい人の特性も、発症の原因の一つとなります。
例えば、過剰に頑張ろうとする入れ込み過ぎる傾向の人や、理想が高すぎて現実とのギャップに悩む人は要注意です。また、ストレスを一人で抱え込んでしまい、周りに相談しない人も五月病になりがちです。
こうした自己完結型の性格の持ち主は、ストレスをうまく発散できずにたまり過ぎてしまうため、適応障害になる危険性が高くなります。
社会状況(新型コロナウイルスの蔓延)
近年注目された社会状況の変化は、五月病になりやすい環境を生み出したことでも知られます。それが「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の蔓延です。
在宅待機・テレワークの増加、マスクの強要、観光・遊びの控えと外出自粛がちょうど5月頃から感染症対策が始まったこともあり、五月病をここ数年で大きく増やした結果となっています。
このように、五月病は個人の周辺環境や特性、社会環境、低度のうつ病などさまざまな原因によって引き起こされるのです。
4. 企業が行うべき対策
五月病は個人のメンタルの問題だと思われがちですが、企業全体が取り組むべき課題です。そこで、企業が取るべき対策が下記です。
・研修やセミナーの実施
・労働時間や仕事量の配慮
・上司や専門スタッフによる相談機会
・窓口の創生(産業医設置・メンター制度)
・不調や五月病のサインを見逃さない研修、管理マニュアルの用意
・チームコミュニケーションの充実
以下に詳しく説明していきます。
研修やセミナーの実施
企業による対策として有名な方法に研修やセミナーがあります。
新人研修や社員研修は本来、五月病対策に行われるものではありません。しかし、内容次第では対策の1つとなりえます。
例えば、社員一人ひとりの仕事のスケジューリングや体調管理の仕方、スキルに合った仕事の引き受け方・対処方法など、知っているだけでストレスや業務負担を軽くできます。
五月病のように原因が複数あり、独自の部署や専門のスタッフだけですべての社員の対策ができるわけではありません。そこで、企業が社員に身に着けさせるべき知識や対処方法として研修・セミナーの形で知識や対策を落とし込みます。
労働時間や仕事量の配慮
新入社員や転職者にとっては、その会社で初めての勤務となるため、労働時間や仕事量に対して配慮することが五月病の対策となります。なぜなら、過剰な業務は、ストレスや身体的な負担をもたらすからです。
働く行為はやりがいやモチベーションと連動し、一定の基準を超えるとマイナスに作用します。過労によるうつ病予防や自殺の対策などの労働衛生管理は、五月病を防ぐためにも大事なことです。
仕事に慣れるまでは、長時間勤務が社内の通例であっても、長時間労働は回避し、仕事量やペースを調整することが望ましいのです。上司の独断ではなく、人事や経営陣の率先した取り組み促進をすることで社内風土に縛られた超過時間労働を防ぐこともできます。
上司や専門スタッフによる相談機会・窓口の創生
社員がどれだけ個人で頑張っても雇用されている側では、企業方針や上司の指示に従う場面が多くあります。つまり、五月病を個人で防ぐ知識や対処法だけでは不十分です。そこで、上司や専門スタッフによる相談の機会を作り出し、窓口を設置するなど、五月病を防げる取り組みを進めることが大切です。
例えば、専門スタッフを拡充する場合、産業医や衛生管理者を置くことです。従業員50人以上の企業は産業医設置が義務です。しかし、それ以下の企業でも率先して設置し、面談や相談を通じて社員の悩みや困っていることを受け止めることで改善される効果もあります。
また、上司や同僚の先輩が相談窓口となる「メンター制度」の導入も有効です。メンター制度とは、経験豊富な先輩社員・上司が支援者(メンター)となって、経験の浅い社員や新入社員(メンティ)の問題解決を導く取り組みのことです。
すでに社員が解決するノウハウを持っている場合には、問題がスムーズに解決して五月病の原因となる業務や人間関係のトラブルを回避することができます。それ以外にもさまざまな相談を通じてモチベーションやキャリア形成のサポートが可能です。
不調や五月病のサインを見逃さない研修、管理マニュアルの用意
研修が必要なのは下の社員だけでなく、上司や経営層にも言えることです。
例えば、上司・経営層の教育として外部から研修講師を招いてのメンタルトレーニングの方法やパワハラなどのハラスメント対策の教育を行います。現場で指揮する人が下の社員を効率的に管理するノウハウやスキルを身につける機会になります。
会社側としても管理マニュアルの用意や朝会でのコンプライアンスの徹底など、管理者教育を促し、下の社員が五月病にならずに働きやすい環境を整備するのが大切です。
もちろん、下の社員のためだけでなく、さまざまなトラブルを抱えやすい上司や管理者が知識を身につけることで適切に対処できるようになります。その結果、社員全体の環境ストレスが減り、五月病を防ぐ取り組みとして成立するのです。
チームコミュニケーションの充実
五月病は職場環境や人間関係のストレスがきっかけで発症することもあるため、チームコミュニケーションを取れるような風土や環境づくりが重要です。
社内でコミュニケーションをとるためのツール活用や声掛け、他部署との連携など、チーム内外のコミュニケーション作りを積極的に行います。そのためには、上司や経営層が率先してコミュニケーションの方法を考えたり、ツール導入を検討したりする具体的な行動が求められます。
社内で誰にでも考えていることを発信できることを「心理的安全性」と呼びますが、良い職場環境作りを促して個人で悩みを抱え込まない職場にできるのです。
5. まとめ
本記事では、五月病の概要や症状、原因、企業のすべき対策について解説しました。
新生活を始める新卒者や転職者などの新入社員は、周囲や環境の変化によって連休明けの5月頃に五月病を引き起こします。その原因は、仕事や職場でのストレス、イメージとのギャップ、目標の喪失、社会状況の不安定な変化(コロナ渦)などが複雑に絡み合っています。
五月病の主な症状はやる気減退や憂うつ感といった精神的症状から頭痛などの身体的症状、お酒の飲み過ぎなど行動に出る症状までさまざまです。
そこで、企業は個人の責任として放置するのではなく、会社全体で五月病を引き起こさないための対策が必要です。研修や専門スタッフの配置、メンター制度の導入など、自社に必要な対策を見極めて取り入れましょう。
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