昨今、コロナ禍を背景に、職場におけるメンタルヘルスの重要性が再認識されています。メンタルヘルス不調で休職・退職する社員が増加すれば、人件費の損失はもちろん、優秀な人材の流出にもつながります。一方で、セルフケアを促す取り組みは従業員のエンゲージメントを高め、スムーズな職場復帰を実現します。
本記事では、職場のメンタルヘルス対策をどのように進めていけばいいのか、厚生労働省の指針に基づく具体的な対策を解説していきます。
同時に、メンタルヘルス不調に効果的と言われる運動やマインドフルネスなどが、どのように効果をもたらすのかについても探っていきます。
メンタルヘルス対策の重要性と実施方法について理解を深め、より健康な職場環境を実現するためのヒントを探していきましょう。
■目次
1. メンタルヘルスとは?
2. 職場のメンタルヘルスの必要性
3. 厚生労働省の提唱するメンタルヘルス対策の実施方法
4. メンタルヘルス対策の3つの段階
・一次予防【未然防止】
・二次予防【早期発見、適切な措置】
・三次予防【職場復帰の支援】
5. 職場におけるメンタルヘルス対策「4つのケア」
・セルフケア【労働者】
・ラインケア【管理監督者】
・事業場内産業保健スタッフ等によるケア【産業医や衛生管理者等】
・事業場外資源によるケア【機関・専門家】
6. メンタルヘルス対策の具体的な進め方
・教育研修・情報提供
・職場環境の把握と改善
・メンタルヘルス不調への気づきと対応
・職場復帰における支援
7. 運動やマインドフルネスによる効果
8. まとめ
1. メンタルヘルスとは?
メンタルヘルスとは、心の健康のことです。世界保健機関(WHO) は、メンタルヘルスを「すべての個人が自らの可能性を認識し、生命の通常のストレスに対処し、 生産的かつ効果的に働き、コミュニティに貢献することができる健全な状態」と定義しています。
出典:日本看護協会「メンタルヘルス Mental Health」
ストレスなどで心のバランスが崩れると、不安や抑うつ、睡眠障害などの症状が現れます。一方で、自己効力感や仕事への達成感、人との交流などのポジティブな要因がメンタルヘルスを支えます。
これらの症状は誰にでも起こりうる一般的な反応であり、本人の努力や職場のサポートで改善できる場合が多いのです。
2. 職場のメンタルヘルス対策の必要性
職場におけるメンタルヘルス対策は、労働者のメンタルヘルス不調による休職・離職を防止するために必要です。厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」(令和4年)によると、メンタルヘルス不調によって連続1か月以上休業した労働者のいた事業所は10.6%、退職者のいた事業所は5.9%であったと報告されています。
メンタルヘルス不調は生産性の低下を招き、損害賠償請求や補償の要因にもなり得ます。心の病を放置すれば治療費用がかさみ、人材流出にもつながります。したがって、職場のメンタルヘルス対策は生産性向上と治療費抑制の両面から重要なのです。
3. 厚生労働省の提唱するメンタルヘルス対策の実施方法
職場におけるメンタルヘルス対策推進のため、厚生労働省は「労働者の心の健康の保持推進のための指針」(平成18年策定、平成27年改訂)を発表しました。この中で、職場において事業者が行う労働者の心の健康保持増進のための処理(以下、「メンタルヘルスケア」)が適切かつ有効に実施されるように、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について定めています。
この指針の中で、原則的な実施方法について
としています。
以下に、メンタルヘルス対策の3つの段階、職場におけるメンタルヘルス対策「4つのケア」、メンタルヘルス対策の具体的な進め方について、具体的に解説していきます。
4.メンタルヘルス対策の3つの段階
職場のメンタルヘルス対策は、「一次予防」「二次予防」「三次予防」の3段階からなります。それぞれの段階に合わせた取組が必要になります。
一次予防【未然防止】
メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組みです。これにはストレスチェックの実施、ストレスマネジメント研修、職場環境改善などが該当します。
二次予防【早期発見、適切な措置】
不調の兆候を見逃さず早期発見につなげる段階です。相談窓口の設置や産業医等による面接指導が中心となります。
三次予防【職場復帰の支援】
休職した従業員の職場復帰を支援する段階です。産業医等が本人と上司に助言し、復職プログラムを提供するなどの取り組みが挙げられます。
5. 職場におけるメンタルヘルス対策「4つのケア」
メンタルヘルスケア対策のこれら「3つの段階」において、次の「4つのケア」を継続的かつ計画的に行うことが重要です。
セルフケア
労働者が自らの心の健康状態を把握し、ストレスへの対処法を身に付けることです。
そのために事業者は、次に示すセルフケアが行えるように教育研修、情報提供を行うなどの支援が求められます。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
・ストレスへの対処
ラインケア
上司が部下のメンタルヘルスに関心を払い、必要な配慮を行うことです。
大切なのは、部下の「いつもと様子が違う」に早く気づくことです。そのためには、コミュニケーションを密に取る、適正な業務量を心がける、といった日常的な関わりが求められます。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や保健師が面接指導を行ったり、復職支援プログラムを準備するなどの取り組みです。
産業医は法律で定められた産業保健の専門家であり、面接指導で気づいた徴候に応じて適切な対応策を提案できます。産業医や衛生管理者、保健師などの事業場内産業保健スタッフ等は、「セルフケア」、「ラインによるケア」が効果的に実施されるように、労働者や管理監督者へ支援を行います。
事業場外資源によるケア
メンタルヘルスケアの専門知識を有する外部機関を利用することです。
地域の産業保健センターや専門医療機関、従業員支援プログラム(EAP)などと連携し、必要に応じてカウンセリングや専門治療を受けることができます。
6. メンタルヘルス対策の具体的な進め方
上記5.の「4つのケア」が適切に実施されるように、事業場内の関係者が相互に連携し、以下の取組を積極的に進めていきましょう。
教育研修・情報提供
従業員、管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等に対し、それぞれの職務に応じた教育研修、情報提供を実施しましょう。
管理監督者には部下への関わり方も研修します。また、事業場内に教育研修担当者を計画的に養成することも有効です。こうした取り組みで職場全体の意識を高めていきます。
職場環境の把握と改善
ストレスチェックや職場巡視、労働者からの意見聴取などで問題点を把握し、改善を図りましょう。
例えば、過重労働がみられる部署では業務分担の調整などを行います。これによりメンタル不調の原因となる職場環境要因を最小限に抑えます。
メンタルヘルス不調への気づきと対応
メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合には、その早期発見と適切な対応を測ることが必要です。そのため次の3つに関する体制を整備しましょう。
1.労働者による自発的な相談とセルフチェック
2.管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等による相談対応
3.労働者の家族による気づきや支援 等
早期に適切な対応を取ることで重症化を防ぎます。
職場復帰における支援
メンタルヘルス不調により休職した従業員が、円滑に職場復帰し、就業を継続するための支援を実施しましょう。
具体的には、衛生委員会等において調査、審議し、職場復帰支援プログラムを策定します。その実施に関する体制整備やプログラムの組織的かつ継続的な実施が必要となります。
こうした支援が再発防止と定着につながります。
7. 運動やマインドフルネスによる効果
メンタル不調を予防する上で、運動習慣やマインドフルネスも大切なセルフケアの一つです。
運動には脳内でセロトニンが分泌され気分が高揚し、ネガティブな気分を発散させる効果があります。また、こころと体をリラックスさせ、睡眠リズムを整える作用があります。とくに効果的なのは、体の中に空気をたくさん取り入れながら行う有酸素運動だと言われています。
またヨガやマインドフルネスは、今この瞬間の自分の感覚や呼吸、身体に意識を向けます。これにより精神状態が落ち着き、ストレス耐性が高まります。
2023年に発表された臨床試験では、不安障害の治療において、マインドフルネスが薬の治療と同じくらい治療効果があることが示されました。
参考:MELON マインドフルネス・瞑想の科学的エビデンス徹底解説【効果の研究・論文紹介】
マインドフルネスは、世界的にもビジネスパーソンにも効果的な手法として注目を集めています。例えば、Google社はマインドフルネス・神経科学・エモーショナルインテリジェンスを融合した「SIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)」という能力開発プログラムを開発しています。
「マインドフルネス」について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
8. まとめ
メンタルヘルス対策は、労働者の心の健康を守り、生産性の維持・向上を実現するために必要不可欠な取り組みです。厚生労働省の指針では、未然防止から早期発見・対応、職場復帰支援までの3段階の対策と、セルフケアから事業場外資源までの4つのケアが推奨されています。
職場全体でメンタルヘルスの重要性を理解し、管理監督者の教育、ストレスチェックと職場環境改善、相談窓口の整備などを計画的に進めることが大切です。運動習慣やマインドフルネスなどのセルフケアが疾病予防と治療効果の両面において重要だと最近の研究が示唆しており、企業として取り組むことも効果的です。
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